You’ve Got

a Friend

さい合言葉
 
アキ
 

第3章 仲間たち

カーラとナイルがやってきたのは、お祭りで賑わう町の広場でした。

ナイルは辺りをキョロキョロ見回すと、小さな噴水がある場所へ一輪台車を進めていきました。カーラも遅れを取るまいと、両手に抱えた炭袋の上から前を覘き込むと、一生懸命小さな足を前に進め付いて行きました。

噴水のところまでたどり着くと、ナイルは一輪台車を止めました。

カーラは抱えていた炭袋を一輪台車へ戻すと、噴水の石段に腰おろしホッと一息つきました。ナイルは腰に手をあてがうと、「顔真っ黒だぞ…」と呆れたようにカーラを見つめました。

「言わんこっちゃない。いいか、俺は止めたからな?」

ナイルは冷たく言い放つと、額の汗を袖で拭いました。

それを見ていたカーラは悪戯そうに笑うと、「お前もな!」とナイルを顎で指しました。ナイルは噴水をのぞき込むと、額が黒くなっていることに気付きました。炭で汚れた袖で額をぬぐってしまったようです。ナイルはフンッと鼻を鳴らすと、気にせず炭の袋を一輪台車の前に綺麗に並べ始めました。

この炭はこれから町の人々に提供する大切な商品だったのです。綺麗に並べ終わると、ナイルは炭の上等さを見せられるよう一つだけ口を開けてやりました。ホッと一息つき、噴水の石段に腰を下ろそうとしました。すると隣からスッと小さな手が伸びて、目の前に小さなハンカチが目の前に止まりました。目で辿ると、カーラが「使えよ」と言わんばかりに自分のハンカチを手に腕を伸ばしていました。

「今日も炭屋さんやるんだろ?そんな真っ黒な顔じゃ誰も買ってくれねぇぞ。顔ふけって!」

ナイルはカーラに見向きもせず噴水に手を伸ばすと、さらっと顔を洗いました。ぷるぷるっと頭を振ると、服の裾で水滴をぬぐおうとしました。しかしカーラが「使え」とばかりにナイルの顔にハンカチを押し付けたのもですから、ナイルはびくっとしました。そしてカーラの手をそっと払いのけると、結局汚れてない方の服の裾で顔をふいてしまいました。カーラは口をとがらせると、仕方なくハンカチの手をひっこめました。そして自分も噴水の水に手をのばすと、バシャバシャと顔を洗いハンカチで顔をふきました。

 

二人で噴水の石段に腰をおろすと、町の人々が行き交う様子を静かに眺めました。

まだ夏の日差しが厳しい季節。炭なんて人々は見向きもしません。

「にゃ~お!にゃ~~お!」

どこからか声が聞こえてきました。

振り向くと、3人の少年がこちらに向かって歩いてきます。

カーラは手を振ると、彼らに向かって手招きしました。ナイルはまた面倒くさそうに溜息をつきました。

​やってきた少年たちは、アーサー、ケネス、ダンという名前のカーラの友達でした。

年   上

第1章 友達の少年

「ねぇ、カーラ!今日もどこかいっちゃうの…?」

「今日は友達と約束してるから、ごめんなローラ」

玄関でブーツの靴ひもを結びながら、カーラと呼ばれた少年が言いました。

 

「アキは?今日は天気も良いし、アンナとアキと三人なんて楽しそうじゃん」

 

「アキも今日はお友達と遊ぶって言ってたもの。知ってるでしょ?お兄ちゃんのお友達がいるんだって」​

「一緒に遊べば?」

「しゃべったことない、あんま知らない人だもん、やだ!ねぇカーラ一緒にきてよ!」

「だからにーちゃんはダメだって!」

ローラはムスッとすると、兄の背中にむかって静かにべ~っと舌を出しました。

そしてそんなことお構いなしに、カーラは「じゃあな!」と元気よく家を飛び出しました。

「つまんない。いっつもお友達と一緒に遊んでさ…。ねぇ、あたしはー?…もぉ~…ふんっ!いいもん、アンナと遊ぶから」

カーラとローラは海辺の牧場に暮らす兄妹でした。

とても仲の良い二人でしたが、理由はわかりませんがいつ頃からか、カーラは友達と遊びに行くことが多くなっていました。

一緒に過ごす時間が限られていた妹のローラは、なんとなく寂しかったのです。

ローラは、そうだ!と両手を合わせると、お気に入りのハンドバックにお気に入りの絵本を一冊しまうと、白い麦わら帽子をかぶり、玄関へと急ぎました。

外へ出ると、遠くを歩くカーラが見えました。ローラはニヤリとすると、こっそり後をつけていきました。

途中、こちらに気付いた仔馬が一頭駈けてきました。ローラは慌てて人差し指を口元に立てると、仔馬の小さな額をなでてやりました。

「カーラがどこに行ってるのか、何して遊んでるのか気になるの。

ごめんね、今日は大人しく待っておいで。帰ってきたらあんたの大好きなりんごを沢山あげるわよアンナ」

アンナと呼ばれた仔馬は、ブルルと鼻を鳴らすと「行かないで」とばかりに額をローラに押し付けました。

「こら!りんごが食べられなくなっちゃうわよ!」ローラにピシャリと言われると、今度はアンナの方がムスッとしました。

それを見たローラはにっこり微笑むと「じゃあな!」カーラの真似をして牧場を飛び出して行きました。

カーラの後をついていくと、小さな町に辿り着きました。

この辺では唯一の都会と呼ばれる場所で、お店の他に小さな学校や病院も見られました。

 

今日はどことなく賑やかです。

町の広場に5人のバンドマンがブルーグラスやバンジョー、ヴァイオリンやチェロにアコーディオンで場を盛り上げます。

広場を囲むようにして、小さな出店も並んでいました。今日はお祭りでしょうか、人々も大いに賑わっています。

ローラはお祭りの賑やかな雰囲気にみとれて、カーラを見失ってしまいそうになりました。

沢山の人々をかき分け、兄を見失うまいと必死に小さな足を前に前に進めました。

ローラはまだ小さかったものですから、人の間をすり抜けるのは簡単。しかし何人もの大人の足をすり抜けていかねばなりませんでした。途中、帽子を人ごみに落としてしまい、また人ごみをかき分け取りに戻ると、ついにカーラを見失ってしまいました。

ついさっきまで数メートル先を歩いていた兄の姿が見えなくなると、ローラは一気に心細くなり不安になりました。それまで軽々と人ごみをかき分けてきたのに、それが出来なくなりました。

「おにいちゃーん!ねぇカーラー!!」

ローラはその場で兄を呼びましたが、その声が届くことはありませんでした。

その時です、見たことのある少年が目の前を通り過ぎました。

「あ!…あれって…」

見たところ、自分より4つも5つも年上の少年でした。どこかで見たことがあります。誰かを探しているようで、キョロキョロしていました。ローラは声をかけようと、また人ごみをかき分けていきました。もう少しで手が届く、そう思った次の瞬間、急に手を後ろへ引っ張られました。咄嗟に振り向くと、更に見覚えのある顔がこちらをのぞき込みました。自分と左程変わらぬ背丈の金髪の少年でした。

 

 

「アキ!」ローラは一気に笑顔になると、安心したように彼に飛びつきました。

アキと呼ばれた少年は支えきれず、その場にしりもちをつきました。

「いてて…、ローラ何してるの?一人でお祭りに来たの?」

「別に迷子じゃないわ!ただ…!」

ローラは言いかけると、咄嗟に恥かしさでいっぱいになり、黙ってしまいました。

アキは「変なの」と言うと立ち上がり、ズボンについたホコリをはらいました。

「アキうしろやったげる!」ローラはアキの背中とおしりについた砂埃をはらいました。

そして両手を取ると、ごめんなさいの印に握手をしました。

「アキこそ一人でお祭りに来たの?」

「ううん、ケイと来たの。…その、はぐれちゃって」

「あら、そうなの?じゃあ一緒に探してあげる!

さっきその人にそっくりな人を見かけたの、きっと近くにいるわ。

その代り、カーラを一緒に探してくれる?」

白状したローラに、アキは思わず笑い出しました。

 

「あー!なんで笑うの!?まさか合言葉をお忘れかしら?」

ローラは少しムスッとしましたが、アキが「いいよ」と大きく頷くのを見て笑顔になりました。

「困ったさんはお互いさん」互いに助け合おう、これが、オリブの子どもたちの合言葉だったのです。

「ケイとは、もしはぐれたらケイの家の前に集合することって決めてあるんだ。」

ケイとはアキの親友でした。3つ程年上で、町で車やバイクの修理とジャンクショップを営む家の一人息子でした。

「だからきっと大丈夫、先にカーラを探そうよ、困ったさん!」

 

「あら、ちゃんと覚えていたのね?ほめてあげる。でも困ったさんはあなたもでしょ?お互い様だわ!」

アキはにっこり微笑むとローラの手をかたく握りしめ、人ごみを器用にかき分けていきました。

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第2章 炭売りの少年

「にゃ~お!にゃ~~お!」

カーラはとある二階建ての家の前まで来ると、口元を覆うように手をあて猫の鳴き真似を始めました。

お祭りだというにも関わらず、辺りには誰も居ません。家もとても貧しそうな雰囲気で、庭は無く、小さな畑と炭を焼く為の窯があるだけでした。寂しく通り過ぎる風の音と、カーラの猫真似の声しか聞こえません。

しばらくすると、カーラは猫の鳴き真似をやめ、つまらなさそうに貧相な家を見上げました。

 

「なぁんだ…」

溜息を一つ、もと来た道を戻ろうとしました。

 

すると…

「あいてっ!」

カーラの頭上目がけて何かが飛んできました。頭の上でコツンと音を立てると、そのままカーラの足元に落ちて行きました。

カーラは頭をさすると、足元に落ちたそれを拾い上げました。見ると、何やら白い貝殻のようでした。

「これ…」

それは小さな白い巻貝でした。見ると、巻貝の中(殻口)にくしゃくしゃと丸められた紙切れがはさまっていました。

カーラはそれを引っ張り出すと、そっと開きました。

" 帰れ "

そこには子どもの字で、そう一言だけ書いてありました。

カーラは家を見上げると、二階の部屋の窓が開いています。

カーラは悪戯そうに微笑むと、その場に落ちていた炭の残骸を拾い上げると、紙切れに" 下だ " と書いてまたそれを貝殻に詰め込みました。そして家を見上げ狙いを定めると、それを二階の窓に向かって思い切り放り投げました。

貝殻は吸い込まれるようにして、二階の窓から部屋の中へ消えて行きました。

そしてコツンという音の代わりに「いてっ!」という鈍い声が聞こえました。

その声を聴いたカーラは再び悪戯そうに微笑むと、近くにあった木の枝を拾い上げました。

すると、間もなくして一人の少年が窓からほんの少し顔を覗かせました。

黒いしわくちゃのシャツを着ていて、髪の毛もまるでクセ毛のようにあちこちはねていました。表情は暗く、肌は青白く見えました。瞳には色がないように見えます。

 

カーラは下から少年に大きく手を振りました。しかし少年は振りかえさず、じっとカーラを見下ろしています。

するとカーラの足元に何かを見つけ、目を細めました。

" 仕事手伝うよ "

カーラが木の枝で地面に書いた手紙の続きでした。

少年は溜息をつくと、そのまま静かに窓を閉めました。

カーラはそれを見届けると、近くの木に登って遊んだり、地面を這うアリやダンゴムシを見て遊びました。

そうして時間をつぶして、少年が降りてくるのを待っていたのです。

しばらくすると、家の戸が強引に開かれ、先程二階からこちらを見下ろしていた少年が勢いよく飛び出してきました。

いえ、飛び出してきたというより、追い出された…に近いかもしれません。小さなブリキのバケツと一緒に放り出されたのです。少なくともカーラにはそう見えていました。

そして間もなくすると、開かれた扉は勢いよく閉められました。

少年は特に気にすることもなく、炭焼きの窯へ歩いて行き、炭の入った袋を畑に置いてあった木製の一輪台車に積めるだけ積みました。そしてブリキのバケツをハンドルにぶらさげると、そのまま町の方へ向かって歩き出しました。

カーラは慌てて後を追いました。そして少年の隣を同じペースで歩き出したのです。

                         少年はカーラを見ることもなく、言葉を交わすこともなくただ歩き続けました。

                          それでもカーラはそんなの気にすることなく、やはり同じペースでついてき

                           ます。

                            少年は溜息を一つつくと、「帰る家がないのか?」と静かに呟きました。

                            しかしそれを聞いたカーラは更にニヤリとしました。

                            「やった!今日はいつもより早かった!声掛けてくれるのにきっと5分も

                            早かった!炭売りに行くんだろ?俺も手伝うからさ!」

                         

                          カーラは、一輪台車から落ちそうになっていた炭入りの大きな麻袋を両手に抱え

                          ると、また少年の隣を歩きだしました。

                       しかし少年はやはり黙ったまま、そればかりか大変迷惑そうな顔をしました。

 

「なんでついてくるんだよ…」やっと次に口を開いたと思えばそんな言葉です。しかしカーラは、また話してくれたことが嬉しくて仕方がありませんでしたから、ニコニコするばかりでした。

「この間のお礼をしたくってさ」微笑みながらそう言うカーラに、少年はまゆをひそめました。お礼とは一体何のことでしょう?

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