カフワベルトの図書館は、モミの木の根の下に広がっていました。

館内では、まだ騒動に気付かず静かに読書をする動物達、新聞を読む動物達、居眠りをする動物達が沢山おりました。

カルディとドリッパーがカウンターへ向かうと、受付のハツカネズミのおじさんが新聞を読んでいました。2匹に気付くと新聞を置き、分かったように無言でVサインを作りました。しかしこのVサインはVではなく、地下2階の「2」を表していることをカルディとドリッパーは知っていました。帽子のツバをくいっとし礼を言うと、2匹は階段を下りて行きました。

図書館の地下2階は「天文学と自然」についてのフロアでした。

誰もが静かに読書をしている中、一匹だけ忙しく動くネズミがおりました。木のハシゴによじ登り、本を探しているようでした。カルディとドリッパーは顔を見合わせ頷くと、ネズミの下へ歩いて行きました。

「あったわ!『星へ飛んだトビウオ』シュナイザー著。はい、受付のおじさんにお願いしまーすって言うのよ」

「わぁ~やった~!見つけてくれてありがとうネル姉ちゃん!」

「あなた好きねシュナイザー博士の本。研究者になるの?」

「無理だよ…、博士はウサギ!僕はネズミだもの」

「どんな動物も自分次第で何にでもなれるわよ。せっかく勉強熱心なんだもの、大丈夫」

「これ夏休みの宿題だよ~…。自由研究をしなきゃいけなくってね。先生がなんでも良いって。でも僕研究てなにするのかわからないから、大好きなシュナイザー博士の本を沢山読んでみようと思ったの。博士の本おもしろいんだよ!」

「へぇそうなの!じゃあその本、今度どんなだったか教えてくれる?約束ね」

「うん、いいよ~!じゃあねー!」

「あ!クルナー?館内の通路は~?」

「走らない!」

「よし!」

ネズミの少年クルナーはそう言って歩いて行こうとすると何かにぶつかりました。が、咄嗟に支えられ倒れずに済みました。

クルナーは見上げるとニッコリ微笑みました「なぁんだカルディじゃないか!帰ってきてたんだ!ねぇ旅はどうだった?」

カルディは微笑むと「シュナイザー博士の本がどんなだったか教えてくれたら話してあげるよ」とクルナーの小さな頭をなでてやりました。クルナーは「ちぇ、お預けかよ~」と頬を膨らませましたが、わかったと言うなり受付へ向かって歩いていきました。

「はぁいカルディ。帰ってきてたのね!今度の旅はどうだった?」そう言ってネズミはハシゴをゆっくり降りて来ました。

「ま、そうは言ってもきっと私もお預けよね?あなたが私を訪ねてくる時はいつも"調べもの"がある時。今度は何が知りたいの?」

「有難うネルドリップ。実は今朝イブリックから預かったものがあって…こいつを解読してほしいんだが…」

「あら、ほんとにお預けなのね?…もう!」

カルディは申し訳なさそうに頭をかくと、その仕草にネルドリップと呼ばれたネズミは彼を許し「貸してみなさい」と紙切れを受け取り、まじまじと見つめました。

 

しばらくの間沈黙が続き、ドリッパーはおもわず「何かわかりそう?」と声をかけました。しかしネルドリップは黙って紙を見つめたまま。カルディとドリッパーは互いに顔を合わせ肩をすくめ、静かにネルドリップを見守りました。

しばらくするとネルドリップは紙をたたみ、黙って2匹に手招きをし、ついて来るように言いました。

 

ついていくと、そこは関係者以外立ち入り禁止の書庫でした。そこは古い紙の香りが部屋中に漂っていました。扉を閉め、小さな切り株のテーブルに紙を広げると、ネルドリップは小さな声で言いました。

「どうしてこれをあなた達が持ってるの?イブリックから預かったって?じゃあ彼はどうしてこれを持ってるの?」

半ば真剣な表情の彼女に、カルディとドリッパーは目を合わせました。そして今朝の出来事を、すっかりネルドリップに話して聞かせました。ネルドリップは聞き終えると、書庫から一冊の分厚い本を取り出しました。記憶を辿るようにページをパラパラとめくり、紙の横に本を開いて置きました。とても古い本のようで、紙が古くなった香りが辺りにより一層強く漂いました。ドリッパーはそのニオイに鼻をつまみ手をパタパタとさせましたが、カルディはこの香りが嫌いじゃありませんでした。

「この本を見て。カルディは旅先で聞いたことがあるかもしれないわね。知ってるでしょう?」

「何を知ってるって?」

「"四大神"の話よ」

"四大神"という言葉に、カルディとドリッパーは再び顔を見合わせました。ネルドリップは分かったように頷くと、一から説明を始めることにしました。

「この紙に書いてある模様、どこかで見たことがあると思ったわ、この本の表紙とまったく同じなんだもの。」

ネルドリップは軽く表紙を見せると、今一度開いていたページを開きました。

「これは冒険家のトラジャが書いた旅日誌よ。」

「トラジャ!?」

カルディは身をのりだしました。

トラジャとはカフワベルトで一番の冒険家で、カルディにとっては優しい父親代わりのネズミでした。

ある日、いつものように相棒のオオスカシバと共に旅に出ていきましたが、それっきり行方不明になってしまったのです。一度、相棒のオオスカシバだけがモグラのトロッコ(モグラの一族が何百年もかけて穴を掘り、レールを敷いて出来た動物界の地下鉄)で森に戻ってきて、カルディに「トラジャからお前にと託されたものだ」と言って預かったものがありました。

   かえ           ひな

それは孵ったばかりのスズメの雛でした。オオスカシバは任務を終えると、何も言わずに再びトロッコに乗って行ってしまいました。行先は告げられなかったものの、カルディには父の元に戻ったのであろうということがなんとなく分かっていました。相棒に戻る場所がある、それはトラジャが生きているかもしれないということ。カルディはただただ帰りをずっと待っていますが、最早一年は連絡が取れないままでした。

いてもたってもいられなくなったカルディが、父と同じ旅ネズミの道を歩み始めたことは森中の誰もが知っています。

旅を続ける中で、きっと父に会うことが出来るだろうと、そう思っていたのです。

本の中には父が残したであろうスケッチが描かれていました。

カルディはスケッチにそっと触れると小さく溜息をつきました。ドリッパーは「大丈夫さ」と言わんばかりにカルディの肩に手をのせました。

ネルドリップもにっこり微笑むと「あなたが残してきた絵は、お父様に届くはずよ」と優しく言いました。

「あなたの絵はお父様が近くで一番よく見てきたでしょう?

旅先で"ここを訪れた"っていう証に、あなたは各地に絵を残してきた…。お父様は偉大な冒険家よ。今でもきっとあちこち旅をしてるに決まってる。

何を言わずとも、どこかであなたの絵を見ているはずよ。」

「だといいけど…」

ドリッパーは再びカルディの方をポンポンと叩くと、ネルドリップに説明の続きを催促した。

ネルドリップは頷くと、また再び口を開いた。

 

「この紙に書いてある模様はあなたのお父様がここからはるか南の地で見つけ出したものよ。

人間の世界ではメキシーカと呼ばれる場所らしいわ。けどこれを見つけた場所は人では大きすぎてとてもたどり着けない、私達だから辿りつける場所なのだそうよ」

動物の世界では人間の言葉をうまく発音できない時があります。人間の子どもが"洗濯機"を"せんたっき"というように。ネルドリップが言いたかったのは人間の言葉で言う「メキシコ」のことでした。

「あの場所では"神様"の存在が信じられているわ。あそこに暮らす私達のような動物も又、神の存在を信じている。人間達が"高いところ"こそ神に近付けると考えたように、動物にも同思考があった。」

「高い所?」ドリッパーは首を傾げました。カルディは本から目を離さず「例えば天空都市のマチュピチュがそうだろ。太陽こそが神様だと思われていた説がある。」と説明した。ネルドリップは「流石はトラジャの息子、知的な旅ネズミだわ」と頷くき、再び説明を始めた。

 

「人々が太陽こそ神であり、高い所へ身を置けば神々へ近づけると思っていたことに対し、私達のような動物は"水のある場所"こそ神に近いと考えていたわ。水の神"テー"がいたから。」

「テー?」ドリッパーは再び首を傾げました。

「メキシーカにいくつも"セノーテ"という泉があってね。その内、私達動物でなければ立ち入れない小さなセノーテがあるの。テーはそこにいるわ。海の神様や川の神様っていった水の神様も世界には沢山いるけれど、テーは泉の神様ってところかしら。何かの本で読んだことがあるわ、どういうわけか、テーは雨の神様"アイシュ"ととっても仲が良かったのですって!」

「アイシュ?」今度はカルディが首を傾げ、ネルドリップは「メキシーカに暮らす動物達は雨の神様をそう呼んでるわ」と付け加えました。「なんでも、干ばつか何かでセノーテに水が無くなって、テーが苦しんでいた時…助けてくれたのがアイシュだって話よ。そしてアイシュは太陽の神"テレサ"とも仲が良かった」

「雨の神様なのに太陽と友達なの?」ドリッパーはあからさまに「変なの」という顔をしました。ネルドリップは「罰が当たるかもね」と悪戯そうに笑いました。その一言にドリッパーは思わずつばを飲み込みますが、すぐさま平気な顔をして強がってみせました。ネルドリップは構わず説明を続けます。

「アイシュはテレサにテーを紹介したことがあるの。テーは干ばつがあったにも関わらずテレサを許した。テレサも心から申し訳ないと思っていたわ。」

「へぇ~、神様は心がお広いんだ?」ドリッパーは半ばバカにしたように言いました。カルディは「バチが当たるぞ?」と悪戯そうに言いました。ドリッパーはまたも知らん顔です。「けどどうしてテーはテレサを許したんだ?アイシュのおかげがあったからか?」カルディはネルドリップに尋ねました。ネルドリップは「詳しくはわからないけれど、干ばつはテレサのせいだけじゃなかったのよ」と説明した。

「泉の神テー、雨の神アイシュ、太陽の神テレサは友情の印にあるものを作った。三人の手が重なった瞬間出来るのは"幸運を呼ぶ"と言われる不思議な石。」

「幸運の石?」カルディとドリッパーは声をそろえて言いました。ネルドリップは身を乗り出し小さな声で言いました。

「"太陽の雫"っていうの」

それは三つの神の友情と喜びの結晶でした。手を取り合った時、雨の後、太陽の光の中に現れる不思議な石で、丸いどんぐりのような形をしていますが、帽子以外実はキラキラと光るクリスタルで出来ていました。拾った者を幸運にすると言われています。雨が降り続き、そして止んだ日…「雫ウタの日」によく現れるといいます。最近はまさにこの「雫ウタの日」でした。

​「ここを見て」ネルドリップは神と本を指差しました。「この模様はおそらく「太陽の雫」を表しているわ!トラジャが日誌の中でそう書いてるの」その言葉にカルディとドリッパーは身を乗り出しました。確かに木の実のような形をしているようにも見えます。そしてネルドリップは「トラジャが日誌に残したものはそれだけじゃないのよ!」と付け加えると「外へ出ましょう!」と2匹を外へ連れ出しました。

地上へ出ると、ネルドリップはクローバーの茂みへ向かいました。そして葉の上に残った雨水を一粒すくうと、紙をまんべんなく濡らしていきました。ドリッパーは驚き「そんなことしたら紙がふやけちゃう!」と止めに入ろうとしましたが、止められたのはドリッパーの方でした。「一体何が起きるんだい?」カルディは紙に何か仕掛けがあるに違いないと思っていました。トラジャが実際に臨んだ謎かけを今、自分たちが同じように解明しようとしてることにワクワクしていたのでした。

雨水が完全にしみこんだことを確認すると、太陽の光にかざしました。

 

すると…だんだんと何かが浮かび上がってきたのです。

「やっぱりね、どんなものよ!」

ネルドリップは得意顔で言いました。

「太陽の雫はここにあるわ」

白い模様のようなものが見えます。

"大きなケヤキの樹"のようでした。

「なんだろう…見覚えがある…」カルディは目を細め呟きました。

「昔、旅で立ち寄った?」ドリッパーの問いかけに、カルディは「海辺を飛んでる時に見たかもしれない」と言いました。

そして、大きなケヤキのツリーハウスのことを思い出したのです。

「ここには確か、食いしん坊のシマリスが住んでるはずだ。名前をノエルといったかな、彼なら何か知ってるかもしれない」

​そして、あ!っと言ったかと思うと「ここのツリーハウスには猫がいるから気を付けよう」と、言い添えました。

Kaldi’s 

travels

第2話 太陽の雫と透かし文字

© 2006.8.18 olive -Akira Sugihara-

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